いや、厳密には出てくるか、「言葉」という魔法が。
この街には「高い塔」と通称される巨大な図書館が存在する。その管理人は代々「魔法使い」として知られ、膨大な知識量を有し、かつ様々な呪いや魔法を駆使して、塔に居ながらに外界へ強い影響力を及ぼす存在と巷間では噂されている。
主人公の少女マツリカは、この図書館の当代の管理人である。もちろん管理人を務めるに足るだけの見識の持ち主なのだが、この少女、「唖」なのである。
本作のもう一人の主人公、キリヒトという少年が、マツリカの「声」となるべく山間の村から遣わされるところから物語は始まっていく。マツリカが手話で表現したことをキリヒトが声に出して代弁するのだ。
本作では「言葉」というものがキーワードとなっている。
前半部では「言葉」というものに対する筆者の知識・解釈を、物語の流れに巧みに織り込みつつ披露していく。どうやら筆者は言語学の研究者という経歴の持ち主らしい。
例えば、手話(特に聾者にとって)は音声言語とは音声言語を翻訳したものではなく、根本的に異なる文法体系で成立している言語なのだそうだ。恥ずかしながら私は全く知らなかった。それゆえに、手話と音声言語の間にはどうしても埋まらない溝が存在してしまう。主人公たちは「指話」という独自の言語を開発し、それを持って埋まらぬ溝を越えようと努力する。
逆に、音声言語はいかに文法が違っているように見えても、底流に流れる構造はほとんどが同じようなものなのだそうだ。母国語たる日本語すら満足に表現できない自分のような人間には到底信じられない話しであるが。
中盤から後半にかけては、マツリカが「言葉」をさながら「魔法」のように駆使して世界を動かし、一気にクライマックスへと収束していく。
その姿は、さながらシャーロック・ホームズを彷彿とさせた。ワトソンとの初対面で、彼が退役軍医であることなどを看破したホームズと同様に、マツリカが自らのもとに集まってくる様々な言葉・情報から世界の趨勢を見事に読みきっていくくだりは、一流のミステリの雰囲気を漂わせる。
さらにはアクションシーンもふんだんに盛り込まれ、臨場感あるれる描写に引き込まれる。
主人公を含めた登場人物も、皆キャラが立っており誰も彼もが魅力的に描かれている。その中でも、マツリカとキリヒトのツンデレ的な関係性、キリヒトに嫉妬する司書の女性陣っていうベタな設定がなんとも言えず微笑ましい。
上下巻1500ページという大著であるが、特に下巻はその分厚さを忘れさせてくれるほどに没入させてくれた。
この魅力的な主人公たちの物語の続編をぜひとも読んでみたいものだ。手話という難しさはあるが、設定的にはアニメ化されそうな雰囲気がぷんぷんするぜ!っていう作品なので、その筋の方々にはぜひとも早めの一読をオススメする次第である。
しかし、この作品、著者の処女作であるっていうんだから恐ろしい・・・。
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