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2014年12月4日木曜日

パンの本、読み比べ

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12月に入り一気に寒さが増して秋の気配は吹き飛んでしまった。過ぎ去りし秋の夜長を愉しませてくれたパン関係の本を2冊紹介したい。奇しくも、この秋には著明なパン職人の著書が3冊発売された。パン特集を組む雑誌も頻繁に発売されているところをみると、パンブームが目前に来ていると言っても過言ではなく、そんな世の潮流を追い風にして発売されたのだろうか。その3冊の著者は、東京「シニフィアン・シニフィエ」の志賀勝栄シェフ、芦屋「ベッカライ・ビオブロート」の松崎太シェフ、「ドンク」の仁瓶敏雄シェフと、いずれ劣らぬ日本パン業界の綺羅星がごときシェフたちである。
今回読んだのは前2者の著書。1冊が「パンの世界」(著:志賀勝栄)、もう1冊が「ベッカライ・ビオブロートのパン」(著:松崎太)である。ちなみに仁瓶氏の本はいわゆるレシピ本なので今回紹介する2冊とは随分毛色が違う。というか、今回紹介する本の方がどっちかというと異端寄りだろう。
発売された時期が重なったのは偶然なのだろうが、両者ともにレシピらしきものは本の数ページあるかないかで、自伝と分類するのが最も近いだろうか。
それぞれパン職人として修行を積んでいった経歴を披露しつつ、その時点で得た気付きを紹介していくというような流れ。志賀氏の本はそこから派生して現在の氏の作るパンの基礎理論に関する考察が続く。
読み比べると、二人のシェフの共通点と相違点がくっきりしてくるから面白い。二人に共通するのは理論派という点。「師匠がこうしろと言ってたから」というような受け入れ方はせず、必ず製パン理論の原点に立ち返り、その作業工程の意味、その素材を選ぶ意味を検討・吟味・理解したうえでパン作りを行っている。味という非常にあいまいな感覚の世界で生きている方々であるにも関わらず、やっていることは逆に恐ろしく計算されたロジカルな行為であるという点が非常に興味深い。考え方がいちいち理系的なのだ。特に志賀氏の著書は、製パン入門書という態で書かれており、私自身今までずっと疑問に思っていたが理解できていなかった製パン理論のいくつかは、この本を読むことですっと氷解した。世にあふれる「パン作りの本」として売られている本の中で製パン理論についてしっかりした説明がある本自体がかなり少なく、痒いところに手が届かない感覚がずっとあった。この本は読み物として無理のないクオリティでしっかりと理論的な解説がなされているのが秀逸。私自身、著者らと同様に理屈が理解できないものは生理的に受け入れがたいタイプの人間なので、著者らの感覚が非常に理解できた。
一方、二人が全く違うのは、人生における仕事の割合だ。片や、志賀氏は睡眠時間以外のほぼ全てを製パンに捧げるかのような生活を送っておられ、もはや求道者と呼んで差し支えないのではないかとすら思える一方で、松崎氏は毎日8~9時間ほどの一般的な労働時間内で仕事を終え、余暇を満喫しておられる。どちらの人生がより充実したものになるのかは、それこそ個々人の価値観によるものだろうと思うが、道を極めていった先の姿がここまで乖離するというのもこれまた一興だ。要はキャパの問題なのかなと思う。松崎氏が全身全霊で仕事に打ち込める時間の限界が8時間なだけで、決して仕事をおろそかにしているわけではないということは、彼の作り出すパンを実際に食べてみれば一目瞭然だ。そうだ、両者に最も共通しているのは「仕事に対する情熱」だ。その道を極めた人の生き方には、他業種の人間でも十分感じ取れる何かの学びがあると思う。この2冊はいずれもそうした学びの多い充実した本であった。惜しむらくは、この2人ともが自らの手でのみパンを作っているということ。いずれ彼らのパンは食べられなくなる。そんな残念な日が来る前に、彼らのパンをしっかりと味わいたいものだ。
追記:志賀氏の本は図書館で借りた後、思わず衝動買いするほど感銘を受けた。

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